犬の鍼灸治療

犬の鍼灸治療

犬にも鍼灸治療をおすすめします

鍼灸は獣医師による治療です。人間と同じように、犬も病気やケガなどに対しての自然治癒力をもっています。 また、人間と同じように体中に「ツボ」、そして「ツボを結んだ経絡」があります。鍼灸治療はそれらのツボを鍼灸で刺激を与えることにより、生体のエネルギーの流れである「気」の流れを整え、犬が本来持っている自然治癒力を高めます。

「犬に鍼灸?」と思われる方もいらっしゃると思います。また、鍼灸治療と聞くと、人だと肩こりや腰痛、どうぶつだと椎間板ヘルニアなど、筋肉や関節の問題のためのものだというイメージがあるかもしれません。実は、鍼灸治療に適応外の病気というものはありません(ただし救急のものには向きません)。肩こりでも、それがストレスからくるのか、冷えからくるのか、人によって原因は様々で、それを探して根本から解決していこうというのが中医学(中国医学)で、その手段が鍼灸や漢方治療なのです。

椎間板ヘルニアの場合

例えば、ダックスに多い椎間板ヘルニアは中医学では「腎」の弱りからくるものと考えます。しかし、この「腎」の弱りがどこからくるのかによって鍼灸治療の施術方法が少し異なってきます。例えば母犬がかなりの高齢で出産した場合は生まれつきの「腎」のエネルギーが弱いため、腎兪や命門などにお灸をして腎気を養ったり、補腎の働きのある薬膳ごはんを取り入れたり、漢方薬を飲ませることで改善していきます。

それとは違い、多頭飼いで相性の悪いコがいたり、なかなか飼い主さんに甘えられない場合やとても怖がりで外に散歩にも出られないコや怒りっぽいコなどは毎日ストレスにさらされています。ストレスは知らず知らずのうちに「肝」に負担をかけてしまい、五行の相乗関係で母にあたる「腎」も段々と疲れてきてしまいます。その場合は肝兪や陽陵泉に鍼を刺してストレスを抜いてあげる必要があります。

これはヘルニアだけではなく、全ての運動器疾患において同じことが言えます。症状は同じ腰の痛みでもそれが「腎」の弱りからくるのか、「肝」の問題なのか、気の滞りからくるのか、冷えているのか熱がこもっているのか、によって鍼灸治療で使う「ツボ」は変わってくるのです。

てんかん発作では

キュティアに来院される患者さんで足腰の痛みや麻痺に次いで多くみられるのがてんかん発作です。てんかん発作というと、突然倒れて足が強直してけいれんしたり、口から泡を吹いて意識を失うというイメージですが、それは大発作と呼び大抵の場合数分で治まります。

それとは違い、低気圧が近づくとソワソワして眠れなかったり、高い所へ上りたがったり、ウロウロと歩き回ったりなどの異常行動をとることがあります。これは小発作と呼び、数時間続くこともあります。てんかん発作は、恐怖や怒り、ストレスなどによって「心」「肝」の気がウツウツと熱を持って頭に上がることで起こったり、低気圧が近づいて体の中で上昇気流が起きて発作を起こすこともあります。

季節でいうと「肝」の気が昇発しやすい春(2月・3月)に多いのですが、梅雨や台風の発生する5月~9月あたりも気圧の上下が多いため注意が必要です。この時期は湿度も高くなるのですが、水は電気を通しやすいため発作も起こりやすくなります。同じ理由から、ぽっちゃり体型のコは体にお水がたまっているのと同じなので発作を起こしやすいと言えます。

また、老犬になってから突然発作を起こすようになった場合は「腎」の弱りが関係しています。「腎」は腎水で肝の火を鎮めたり、気を下してくれる働きがあります。これが弱くなることで気が頭へ上がりやすくなり発作が起きるのです。てんかん発作の治療もその子の「証(しょう:体質や性格)」によって、使う「ツボ」も使う漢方薬も変わります。

鍼灸治療するフレンチブルドッグ

鍼灸治療は「未病」の予防

このように、その子その子の食事や生活環境、体質をじっくり見極めて治療することが大切になるのです。言い換えると、原因がはっきりとわからなかったり、病名がつけられないような病気でも症状や体質から治療することができるのです。つまり鍼灸治療に病名はそれほど重要ではないということです。

またはっきりと目に見える症状や病気はないけれど、
・なんとなく疲れやすくなったかも
・目の輝きが少なくなってきたかも
・寝る時間が増えてきたかも
・少し食欲が落ちてきたかも
というようなコにも鍼灸治療をしてあげると、
「今までよりも活動的になった!」
「目の輝きが変わった!」
「しっぽが上がるようになった!」

という声を多くいただいております。

鍼灸治療は「未病」の治療になるということです。とくに歳をとったわんちゃんは、生体エネルギー(気)が不足している可能性が高いので、お灸でそれを補い、鍼でめぐりを良くしてあげることで、症状の改善が期待できます。鍼灸治療は症状があらわれてから治療開始までの日数が長いほど治療回数も多くなってしまいます。(特に椎間板ヘルニアなどの場合は)できるだけ早めに来院されることをおすすめいたします。

以下に鍼灸治療が適応できる西洋医学的な病名をあげておきます。この他にも適応することができる病気はありますので遠慮なくお問い合わせください。

お家でできるお手軽「棒灸」ケア

お家でもできるケアのひとつに棒灸による温灸があります。

背骨に沿って内臓と直結している「ツボ」がたくさん並んでいます。棒灸であたためてあげることで血行がよくなるだけでなく、気を補うこともできます。また、鍼灸治療の効果も持続しやすくなります。棒灸のやり方はとても簡単で、首のつけねから尾のつけねに向かってクルクルと円を描きながらゆっくりと動かしながらあたためていきます。逆に下から上半身の方へ向かってあたためてしまうとのぼせてしまうので、必ず上半身から下半身の順番であたためましょう。

棒灸を行うタイミングは、寝起きに足腰に力が入りにくいコや、日中元気に活動的に過ごしてもらいたい時は朝に行っていただくのがおすすめです。血行がよくなり、四肢の動きがよくなります。また、夜の寝つきが悪い、夜中に何回も起きてしまう、などという場合は夜寝る前に行うのが良いでしょう。棒灸をしてあげると気持ちがよくなり、ぐっすりと眠ってくれます。

お家でケアしてあげることで、鍼灸の治療頻度、通院間隔を空けていくことも可能です。ぜひやってみてください。

鍼灸治療が適応できる病気の例

神経、運動器の病気

椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、関節炎、リウマチ、膝蓋骨脱臼、股関節形成不全(脱臼)、変性性脊髄症(DM)、加齢やその他の病気による足腰の痛み・筋肉の衰え
■症状
痛がる、動きたがらない、足をひきずって歩く(跛行)、立ち上がるのに時間がかかる、歩くのがゆっくりになる、手足の甲がよごれる、きれいな姿勢のおすわりやふせができない、後肢の麻痺や四肢の麻痺 など

循環器、呼吸器の病気の病気

僧帽弁閉鎖不全症(MR)などの心弁膜症、心不全、気管支炎、肺炎、気管虚脱
■症状
咳が出る、呼吸が荒い、運動を嫌う、疲れやすい、運動すると舌が紫になる など

消化器の病気の病気

歯周病、口内炎、胃潰瘍、膵炎、アレルギー性腸炎や炎症性腸炎などの腸炎(IBD)、胆泥症、肝炎、肝不全
■症状
食欲低下、下痢、嘔吐、便秘 など

泌尿器の病気

腎不全(尿毒症)、膀胱炎、尿路結石症
■症状
多飲多尿、オシッコの色がいつもと違う(薄い、濃い、赤い、濁っているなど)、オシッコの回数が増える、オシッコが出にくい、尿もれ など

生殖器の病気

前立腺肥大、子宮蓄膿症
■症状
オシッコが出にくい、血尿がでる、便秘、、多飲多尿、食欲低下、嘔吐

ホルモンの病気

副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、甲状腺機能亢進症、甲状腺機能低下症、糖尿病
■症状
多飲多尿、多食、脱毛、肥満、皮膚の黒ずみ(色素沈着)、皮膚の乾燥、腹部膨満、低体温、徐脈、元気がない、食べてもやせていく など

皮膚の病気

アレルギー性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、膿皮症、イボ
■症状
痒み、湿疹、かさぶた(痂皮)、イボ、皮膚の赤み、黒ずみ、乾燥、脱毛 など

その他

てんかん発作、前庭疾患、認知症による諸症状。ガン、血液疾患、免疫疾患の症状を和らげる緩和ケア。

チワワの鍼灸治療

獣医師からのワンポイント

犬の体に針を刺すことに抵抗感を持たれることが時々あるようです。キュティアの鍼灸は「一針法」です。できるだけ少ない針で十分な効果をもたらす方法です。「ハリ山」のような治療ではありません。

刺激に敏感なコはダイオード鍼という小児鍼でツボを刺激します。人間や動物の体には弱い電子の流れがあります。ダイオードはその電子の流れを一方向に移動させる働きがあるため、鍼を刺したのと同じようなツボ刺激を与えることができます。棒でなでるだけなので、小型犬や触られることに敏感なコで治療することができるのです。

最初は緊張していたワンちゃんでも治療中に気持ち良さそうに寝てしまうことも多々あります。心配はいりませんので、ぜひ鍼灸治療を試してください。

一般診療について

キュティア老犬クリニックでは混合ワクチン、狂犬病予防ワクチン、フィラリア予防などの予防医療も行っております。また一般的な薬の処方もいたします。

ただし、シニア犬・老犬のロコモーティブシンドローム(運動器症候群)の予防・改善や、中医学(東洋医学)にもとづいた鍼灸治療、漢方処方など医療を専門にしていますので、緊急時における救命処置や、手術・入院に対応する設備は用意しておりませんのでご了承ください。

2020/06/06 更新